本間忠良の「技術と競争」ワークショップはhttp://www17.ocn.ne.jp/~tadhomma/へ転居しました。これからもよろしく

本間忠良 衝撃の新刊 知的財産権と独占禁止法−−反独占の思想と戦略

表紙へ戻る Return to Cover Page

論文とエッセイ(日本語) Theses and Essays (in Japanese)

仮想マガジン「インターネット評論」試作号(日本語)INTERNET REVIEW (Trial Issue) (in Japanese)

情報革命についてのエッセイとゴシップ(日本語) Essays and News on Information Revolution (in Japanese)

Theses and Essays (in English)

情報革命とその敵(講演録)

本間忠良

更新(04-3-27)
 

講演暦(内容は随時アップデート)

01.9.18

02.5.20

02.5.24

独禁法研究会

経済法研究会

公正取引協会

東京

仙台

東京

目次

1.アメリカ戦線--ブラウザー--顧客囲い込み

2.ヨーロッパ戦線--MediaPlayer--コンテンツ販路支配

3.古典的な独占行為--Linuxいじめ

4.ビジョナリーな独占行為--PassportとActivation

5.独占とその対策

 1.独占正当化論

 2.垂直分割と強制ライセンス

 3.著作権


1.アメリカ戦線−−ブラウザー−−顧客囲い込み

「情報革命(1)とその敵」というテーマで話す場合、どうしても触れなければならない話題がMicrosoft事件です。有名な事件ですからご存知の方も多いと思いますが、すこし角度を変えて話しますので、がまんして聞いてください。

1998年5月、司法省提訴。

2000年6月の地裁判決は、MicrosoftによるOS市場独占維持行為(シャーマン法第2条違反)などの違法行為を認め、Microsoftに対して、会社をOSとAPの2事業に分割すること(構造規制)を命じるとともに、分割までの経過措置として、一定の行為を禁止(行為規制)しました。

ここでは、判決で認定された事実の概要を話します。

Netscape Navigator (NN) については、

(1)Netscapeに対して、NNをプラットフォームとして設計しないように説得し、受け入れなければ技術情報(インターフェイス情報)を提供しないと脅した。

(2)OEM(パソコン・メーカー)に対して、WindowsとInternet Explorer (IE) の結合を契約で義務づけ、IEアイコンの削除を禁止し、その他NNを排除するような流通・販売・技術的措置に引きこんだ。

(3)インターネット・プロバイダーに対して、IEとそのアクセス・キットを無料でライセンス、その他NNを排除するような流通・販売・技術的措置に引きこんだ。

(4)コンテンツ・プロバイダーや独立のソフトウエア・メーカーに対して、IEを無料ライセンスし、Microsoftのアプリケーション・インターフェイス・ファミリーに引きこんだ。

Javaについては、

(1)Intelに圧力をかけて、Sun Microsystems等による汎用APの開発を妨害させた。

(2)Microsoft版JavaによってAPメーカーをWindows依存に引きこんだ。

2001年6月巡回裁判決が言い渡されました。まとめると4点からなります。

(1)OS独占維持についての地裁判決を容認。

(2)ブラウザー市場独占企図については地裁判決を破棄(市場画定と参入障壁の立証不十分)。

(3)OSブラウザ―の抱きあわせについては地裁に差し戻し(地裁が使ったper se rule−−行為が立証されれば当然違法−−ではなく、ソフトウエア事業の不確定性にかんがみ、競争制限の立証を必要とする合理の原則rule of reasonを使うべき)。

(4)分割については破棄差し戻し(審理不尽)。

2001年9月、司法省は、地裁差戻し審では、上の(3)OSブラウザ―抱きあわせ(訴因)と、(4)会社分割(救済措置−−構造規制)というふたつの主張を取り下げる方針を発表しました。したがって、訴因としては独占維持、救済措置としては技術情報公開をふくむ一定の行為規制(2)だけが残りました。

2001年11月、司法省とMicrosoftは、連邦地裁の勧告を受けて、同意判決案(3)についての合意に達しました。同意判決案の骨子を下にまとめます。

(1)技術情報開示: Microsoftは、XP発売後1年以内に、同社ミドルウエア製品(Internet Explorer/Java Virtual Machine/ MediaPlayer/ Messenger/ Outlook Expressおよびその後継システム)とWindowsとのインターフェイス情報(API)、および、サーバー・プロトコル情報を、Microsoft Developer Network(MSDN)上で開示する。ミドルウエアの将来版については、その最後のベータ・テストまでにAPIを開示する。Windows将来版については、ベータ・テスト版15万本配布後にAPIを開示する。これらを使用するにあたって必要な知的財産権は有償でライセンスする。ただし、コピー防止、デジタル権管理(DRM)、暗号、認証、第三者知的財産権保護メカニズムなどについてはAPIを開示しない。また、Microsoftが、開示先を、ソフトウエア海賊版販売や知的財産権の故意侵害歴がなく、十分な事業計画を有するなどの条件を満たす相手に限定し、かつ、APIを使ったプログラムをMicrosoftが承認する中立の第三者に提出してMicrosoft仕様への適合を認証してもらうなどの義務を課すことを妨げない。

(2)デスクトップ「不動産」: PCメーカーが非Microsoftミドルウエアを搭載したり、Microsoftミドルウエアのアイコンを削除しても、Microsoftから報復を受けない。

(3)ライセンス条件: PCメーカー上位20社への基本ライセンス条件を統一・公開する(大口割引きなどは可)。

(4)排他取引き: Microsoftソフトウエアの開発・支援につき独占契約は不可。

(5)監視機関: 中立委員3名からなる技術委員会を設置、Microsoftのソース・コードをふくむ機密情報へのアクセスを許す。

(6)期間: 5年(違反あれば2年延長)。

上のうちとくに重要なのは「技術情報開示」ですが、例外の方に興味が引かれます。Microsoftが、ミドルウエアでの市場力を利用してコンテンツ市場に参入、コンテンツ取引きの必須情報、たとえばコピー禁止や課金システムなどのライフラインを抑えようという意図が見えます(4)

「監視機関」は画期的なもので、司法省がいままでやってきた対IBM(1956年と1982年)、対AT&T(1982年)、対Microsoft(1995年)など独占事件の歴史の中ではじめて、モノポリストに対する行政的な管理が登場しました。

上の同意判決案に対しては、ライバル各社(Sun Microsystems、AOL、Real Networksなど)は猛反対、いままで司法省と共闘していた18州中9州(IT産業を抱えるカリフォルニア、マサチューセッツをふくむ)は司法省の合意に参加せず、追加措置を求めて裁判を継続していましたが、2002年11月1日、担当判事は、同意判決案が公共の利益にかなうものと判断してこれを承認、同時に、9州の追加措置要求を拒否しました。2003年6月までにマサチューセッツを除く8州が控訴を断念、大勢が決したようです。

この間、2002年1月、Netscapeの親会社AOL Time-Warnerが、同3月Sun Microsystemsが、それぞれ、2001年6月の巡回裁判決にもとづいて、Microsoftに対して損害賠償請求訴訟を提起しています。

私は別にどちらに味方するわけではありませんが、この訴訟について、日本のソフトウエア産業からの発言がきわめてすくなかったことを、たいへん心配しています。日本のソフトウエア産業は、長らく日本語の障壁に守られていたため、Windows互換ミドルウエアというような最先端分野へ挑戦する気力を失ってしまったのでしょうか。司法省訴訟での同意判決にしても、日本人がそれにもとづいて技術情報の請求などができるのかどうかみものですね。

Microsoft事件は1995年以来連続した事件のようにみえますが、主な事実争点はその間に大きくねじれてきています。

まず、Windows 95/98のとき、Microsoftの仮想敵はNetscapeでした。ちょうど、ネット時代に突入する目前、プラットフォームとしてブラウザ―がOSにとって代わろうとしていた時です。Microsoftは、WindowsとIEの統合(comingling)によってNetscapeを制し、敗れたNetscapeはAOLに吸収されました。インターネット対応言語のJavaに対しては、「Expand, embrace and extinguish(拡張し、包みこみ、そして抹殺せよ)」といわれた戦略をとりました。

コンテンツ市場をめぐるあたらしい競争において、Microsoftは、当面の仮想敵としてAOLをマークしました。Windows XPの「デスクトップ不動産」交渉で、MicrosoftはAOLに対して、AOLのアイコンを搭載するかわりに、MSNのMessengerをAOLのInstant Messagingに接続させるよう要求し、交渉が決裂したことがあります。そこでAOLはPCメーカーに報奨金を出して、アイコンを置いてもらうよう交渉をはじめたところ、Microsoftは、PCメーカーに対して、「もしAOLのアイコンを置くのなら、Microsoftのアイコンを3つ(IE/MediaPlayer/MSN)を置くべきだ。なぜなら、自分自身OSPであるAOLは、ブラウザ―とRealPlayerを内蔵しているからだ」と要求したそうです。

コンテンツ市場というジュラシック・パークへの参入の仕方も対照的ですね。AOLは、合併という古典的な手法で、Time-Warnerという恐竜を飼いならそうとして逆に食われそうになっているのに対して、Microsoftは、CODE(マクロ・アーキテクチャー)を利用して、顧客管理という水飲み場を抑える戦略をとっているようです。

2002年にはいって、AOLは、Time-Warner合併の負担から、損益が四半期ごとに悪化し、ブロードバンド化レースにも遅れぎみです。Microsoftは、仮想敵としてのAOLの存在感が薄れ、Microsoftの独走態勢があきらかになってきた状況を背景に、9月初旬リリースしたWindows XPのサービス・パック1(SP1)で、いままでバンドルしていたInternet Explorer、Messenger、MediaPlayerのアイコンを削除し、かわりにNetscape Communicator、Instant Messaging、RealPlayerなど競合アプリケーションを搭載することを許し、JavaScriptもサポートしています。

もっとも、Hewlett Packardが2002年クリスマス・シーズン向けに発売するPCにプレインストールするWindows XP MediaCenterには、テレビ番組をキャプチャーできるがほかのPCではプレーできないという重いDigital Rights Management(DRM)システムがバンドルされていて、Microsoftの戦略−−DRM強化によるコンテンツ産業へのすりより−−がはっきりしてきたようです。Bill GatesがMicrosoftの最重要課題だと言っている「安全(security)」とは、ユーザーのための「安全」ではなく、コンテンツ業者のための「安全」でした。

2003年5月、MicrosoftはAOL Time-Warnerに7億5,000万ドル払って民事訴訟(前述)を和解しました。ほかに、MicrosoftがAOLに対して、Windows Media 9シリーズとデジタル権管理(DRM)技術を供与する、Internet Explorerを7年間無償ライセンスする、Microsoft次世代OS "Long Horn"の開発に参加させるなどなど、AOLがMicrosoftに技術的に従属することが決定的になりました(契約は非排他的なのでAOLは法的には縛られていませんが・・)。情報革命も、第1世代のSturm und Drang (狂瀾怒涛)時代が終わって、第2世代の「管理の時代」にはいってきたのです−−残念ながら。コンテンツ時代へのレースは、AOLが脱落してMicrosoftの独走態勢にはいりました。コンピューターのプラットフォーム争奪戦は、OSからブラウザーへ、そしてメディア・ソフトへと戦場が移ってきています。

2.ヨーロッパ戦線−−Media Player−−コンテンツ販路支配

MicrosoftのMedia Playerを調査している欧州委員会は米国司法省より先を見ていますね。Netscapeを降したMicrosoftのこれからターゲットは、Real NetworksのReal One Playerでしょうね。Real NetworksはNetscapeの二の舞いになるのでしょうか。こんどはだいぶちがいます。上述した欧州委員会の調査、米国司法省との和解条件がMicrosoftにとってはおおきなコンストレイントになっています。SonyやPhilipsのような家電大手が独自のフォーマットを開発中です。もともとメディアに強かったAppleが音楽配信(i-Tunes)で息を吹き返しそうです。携帯電話がReal Networksに肩入れしています。一番大きな違いは、OSやブラウザーでPCメーカーがMicrosoftの奴隷になってしまったのとはちがって、コンテンツでは映画産業やレコード産業がまだまだキャスティング・ボートを握っていることです。ここでの勝敗の鍵はDRMでしょうね。Passportを利用してコンテンツを支配しようというMicrosoftの野心はいまのところうまくいっていないようですが、Microsoft次世代のOS(Long Horn)は究極のDRMだと言われています(5)

Microsoft事件の主戦場はEUに移りました。Microsoft世界売上の1/3を占めるEUでは、1998年、米国のサーバー大手Sun Microsystemsが、サーバー用OSとアプリケーション・ソフトウエアのバンドリングを理由に、Microsoftを欧州委員会に提訴。2000年8月、欧州委員会は、Microsoftが、Windows 95/98/NTにおける優越的地位を濫用してサーバー用OSの独占を企図している(EC条約82条違反容疑)とする最初の異議告知書(Statemant of Objections)を発出。2001年8月、欧州委員会は、上記にWindows 2000を加えるとともに、Media PlayerとOSのバンドリングについてのEC条約82条違反容疑で第2回異議告知書を発出。2003年8月、多数の事業者とのインタービューにより、上記2回の異議告知書における事実認定に確証が得られたとして、最終異議告知書を発しました。

最終異議告知書そのものは公表されていないのですが、欧州委員会のプレス・レリースによると、Microsoftはつぎの2点で、EC条約82条に違反しているとされています。(1)競争者のサーバーOSがWindowsと交信するために必要なインターフェイス情報の開示を制限し、サーバー用OS市場で競争業者を不利な立場に置いた(PC・OS市場における支配力を梃子にして、サーバーOS市場での独占を企図した)。(2)AV再生用ソフトのMedia PlayerをWindowsとバンドルして販売(かんたんに削除できない)することにより、AV再生ソフト市場での競争を阻害し、技術革新を停滞させた。

プレス・レリースは、また、Microsoftがとるべき対策の概要をつぎのように提示しています。(1)Microsoftの競争者がWindows PCおよびサーバーとの完全な互換性を確立するために必須のインターフェイス情報を開示すること。(2)Media PlayerをWindowsからアンバンドルすること。

異議告知書とは、欧州委員会による事実認定と法の適用を被疑者に示し、防御の機会を与えるもので、違反事件の正式審査では必ずとられる手続きです。被疑者がこれに異論ある場合は、文書で反論することができ(反論しないとこれによる事実認定を後日欧州司法裁判所で争うことができない)、欧州委員会が所有する文書を閲覧することができます(営業秘密を除く)。

本件ではMicrosoftには反論のため2か月が与えられ、この間、Microsoftは具体的対策について欧州委員会と協議していました(委員会が同意すればアンダーティキング(Undertaking)としてMicrosoftを拘束したはずです)。もとモノポリストのIBMが、同社のSNA(Systems Network Architecture)に関する技術情報を欧州の競争業者に開示することになった歴史的なアンダーティキングは1984年のことでした。このとき、IBMは、欧州委員会を説得するため「審決は日本を利するだけだ」というナショナル・カードを切りました(私の個人的知見です)。いまのMicrosoft事件では、日本など問題にもされていないようです。情けないことです。今回の決着も、日本の競争者がフリーライドできるものになるかどうかわかりません(この危惧は当たりました(後述))

サーバーOS事件は米国戦線とおなじleverage(梃子−−優越的地位の濫用)事件でした。ちなみに本件ローエンド・サーバー(workgroup server)でのMicrosoftのシエアは世界で70%、EUで65%です(Gartner Group調べ)。

Media Playerの抱き合わせ事件は、欧州委員会が職権で取りあげたもので、委員会の超長期的な先見性(ビジョン)が見てとれます。欧州委員会は(Microsoftも)、次世代の争点は、コンピューター産業がいかにしてコンテンツ市場を支配するかという戦いにあることを知っています。コンピューター産業(ハードとOS)を持たない、といってもアプリケーションとコンテンツでは米国に対抗する力を持っている欧州が、ポルトガルからギリシャにいたる−−というとトルコがいやな顔をするかもしれませんが、Fernand Braudelによると、ヨーロッパ文明などはサラセン文明のさざなみにすぎないそうですから−−世界に誇るヨーロッパ文明を防衛しようとしている巨大な文化戦争(Kulturkampf)の一環だと、私は見ています。

欧州委員会とのアンダーティキング協議は失敗しました。2004年3月24日、欧州委員会は、MicrosoftがWindowsによる優越的地位を濫用したとして、@Media Playerのアンバンドル(バンドル版とアンバンドル版の両方を、後者が不利にならない条件でPCメーカーにオファーすること)およびAサーバーOSの接続情報(コード)開示ならびにB5億ユーロ弱(約650億円)の課徴金支払いを命じました。Microsoftは、この決定の無効を主張して欧州司法裁判所に提訴しましたが、2007年9月、第一審裁判所はMicrosoftの訴えを棄却しました。5億ユーロ弱という課徴金はEUとしては過去最大ですが、Microsoftにとってはたいした痛手ではないようです。@とAの命令は欧州内に限られます。欧州委員会競争総局のMario Monti委員長は、「命令を『世界中』とすることもできたが、米国やその他の国の競争当局の顔を立てて『欧州内』とした」と言っています。2000年にMicrosoftといいかげんな和解をしてしまった米国司法省に対する痛烈な皮肉でしょうね。日本の公取委など眼中にもはいっていないようです。Microsoftの弁護士によると、協議の中で、Microsoftは競合メディア・プレーヤーも搭載した版のWindowsを「世界中」でオファーするという条件を出したのですが、欧州委員会が聞き入れなかったそうです(5.25)2004年6月、Microsoftはこの決定の無効を主張して欧州司法裁判所に提訴しましたが、2007年9月、第一審裁判所はMicrosoftの訴えを棄却しました。その間の2006年7月、欧州委員会は、Microsoftが接続情報の開示義務を果たしていないとして、追加過料4億ユーロの支払いを命じました。2007年10月、Microsoftは欧州司法裁への上訴を断念、欧州委員会に対して措置命令の完全実施を約束しました。 このなかには、技術情報の大幅開示(従来トレード・シークレット扱いだったWindowsとのデータ交換プロトコルを1万ユーロで開示)とそれに伴う特許実施料の大幅値下げ(5.95%→0.4%)が含まれます。対象はグローバルのようです。よかったですね。これでIBMなどのLinuxサーバーが大躍進のチャンスをつかみました。2008年2月、欧州委員会は、Microsoftが2004年是正命令を期限の2007年10月までに果たしていなかったとして、追加過料9億ユーロ弱の支払いを命じました。競争法が知的財産権を押さえ込んだ一幕でした(5.3)。

3.古典的な独占行為−−Linuxいじめ

そこで注目されるのが、1985年、Richard Stallmanによって創始されたGNUプロジェクトです。GNUプロジェクトから出てくるソフトは自動的に著作権保護を受けるのですが、いわゆるGeneral Public License (GPL)によって、だれにでもフリーにライセンスされます。ここでいう「フリー」とは、複製改変が自由だという意味で、かならずしも「無料」という意味ではないのですが、多くの場合じっさいに無料です。ただし、そのソフトから派生するソフトが、すべて同じGPLでフリー・ライセンスされることが条件です。このメカニズムを通して、フリー・ソフトがどんどん増殖していきます。

その最大の貢献がフィンランドのプログラマーLinus TovaldsによるLinuxカーネルでした。これが何千人ものプログラマーたちによって改良され、ついにGNU/Linuxにまで育ってきました(いまでも日々アップデートされています)。ウエブ・サーバーOSのApacheもフリーですが、財産権保護(proprietary)ソフトのWindows Serverより人気があります。

1998年、Netscapeは、はじめ秘密にしていたNavigatorのソース・コードを公開しました(3千万行もあるところからModillaと命名)。おそらく、急速に追い上げてきたMS Internet Explorerに対抗するための戦略的行動でしょうが、こんなメカニズムを通しても、free software/open source運動は、もう止められないところまできています。同年、IBMがApacheの採用を決め、1999年にはSun MicrosystemsがGPL陣営に加わったことによって、対Microsoft大同盟の旗印がopen sourceであることがはっきりしました。

GPLの拘束力の源泉が著作権だという皮肉ですね。Stallmanは、これを、相手の力を利用して相手を倒す「柔術」にたとえています(5.5)。この運動を単なるハッカー集団だときめつけては、歴史の大きな動きを−−そして大きなビジネス・チャンスを−−見のがすことになります。

2003年早春のLinuxワールド・エクスポ&カンファレンス(サンフランシスコ)はLinuxの大きな盛り上がりを見せました。Googleの創始者Sergey Brinのキーノート・スピーチ「オープン・ソース『つなみ』」で、Googleが1万台のLinuxサーバーを使っているばかりでなく、全技術者のデスクトップもLinuxだという、いままでほとんど知られていなかった事実を公表しました。Brinはその理由として、第1にコスト・パフォーマンス・レシオ、第2にカスタマイズの容易さをあげています。

これに劣らない印象を与えたのがAmazonのWatt Nelsonで、同社が2001年1月Linuxに切り替えて以来、技術コストで25%、インフラストラクチャー・メンテナンスとソフトウエア・ライセンス・コストで11%の原価低減を達成したと述べました。

LinuxはMicrosoftにとって史上最大の危機とみられています。いままでのミドルウエアとちがって、これはOSの本体ですから・・。1982年のいわゆる対日IBM事件が、それまでの周辺機(PCM)事件とちがって、OS本体の事件だったことが思い出されます。

Linux対応のアプリケーション・メーカーをMicrosoftが買い占めているといううわさがあります。たとえば、最近、MicrosoftがLinux対応アンチウイルスのメーカーを買収し、サポート停止を予告するという事件が起こりました。Linux対応アプリケーションはかなり増えてきましたが、それでもまだまだ底が浅く、アンチウイルスのような戦略的な地点を抑えられるとLinux全体が枯死してしまう危険性があります。ウイルスに弱いので有名なMicrosoftが、強いといわれるLinuxのアンチウイルスを止めるというのはかなり露骨ですね。

2003年5月、Linux陣営の一員だったSCOという会社が、現行のLinuxが同社の持つUNIXライセンスを侵害するという理由で、Linuxユーザー1,500社あてに警告状(ライセンス・オファー)を出し、おなじLinux陣営のIBMを提訴しています(トレード・シークレット盗用容疑ほか−−8月、IBMが、GPLにもとづく同容疑不存在確認とともに、SCOに対するIBM特許数件侵害の反訴を提起しました)。SCOの背後にMicrosoftがいるのではないかといううわさをMicrosoftは否定しています。「インターネット評論」参照。

古典的な独占行為というと、ほかにも、MicrosoftがWindowsのバージョン・アップ時に、旧版を店頭から回収するなどの方法で、ユーザーをより高価な新版へ誘導する(6)とか、最新版を保有するユーザーのみに対して、承諾期限をつけて将来にわたる包括アップグレード契約を申し込み、個別アップグレード版の購入が不利になるように価格を設定する(Software Assurance Plan)(7)などなど、あやしげな行動が目に付きますが、ここではこれ以上深入りしないことにします。

4.ビジョナリーな独占行為−−PassportとActivation

技術がこれだけ急速に進んでいる現代、競争当局もそれなりのビジョナリーな感性を持たないと、モノポリストに先を越されます。

いま米国で問題になっているのがWindows XPにバンドルされている(Hotmailには以前からバンドルされている)Passportです。ユーザーが、ユーザー名やパスワード、希望によってはクレジット・カード番号や住所氏名などを登録しておいて、ショッピング・サイトにアクセスする時、いちいち入力しなくてもすむし、ショッピング・サイトの方も、この人が本人だとわかるという便利な機能ですが、これではユーザーのプライバシー情報がぜんぶMicrosoftに抑えられてしまう、wormやcookiesによって外部に漏れる・・などと懸念するプライバシー保護グループが、2001年7月、FTC(連邦取引委員会)に提訴(8)、2002年8月、FTCの同意命令によっていちおう決着しました。これによると、Microsoftは、Passport募集に際しておこなっていた守秘約束を守らなかった、公称していたより深い情報を集めていた(サインイン情報と突き合わせていた)などの行為が認められるものの、違法とまでは至らず、そのため、今後の予防措置として、FTCがMicrosoftに対して20年間にわたって監査をおこない、同意命令違反があればただちに1日11,000ドルの罰金を科することになっています。ここにも行政的な管理がでてきましたね(9)。AOLなどOSPたちは、これがスーパー・ポータルになるのではないか、ユーザーをロックインするのではないか・・という反トラスト法上の疑念も持っているようです。

つぎに問題になっているのがWindowsXPのActivation問題です。これはすでにOfficeXPから採用されている方式なのですが、WindowsXPは、最初にインストールしてから60日以内に(OfficeXPは50操作以内に)Activation(認証手続き)を実行しないとロックがかかります。Activationを実行すると、製品番号とハードウエア・ハッシュ(ハードウエアの設定状態をコード化したもの)がMicrosoftに自動的に送られます。これはシュリンクラップ・ライセンスの1台1ソフト主義を物理的に実現したものなのですが、Microsoftに送られたハードウエア・ハッシュは、ユーザー・ハードウエアの指紋のようなものなので、究極の情報管制システムともいわれます(10)。たとえばgnutella型のファイル・シェアリングによる著作権侵害の探知や検閲目的にも使われる可能性があり、使われ方によっては、次世代インターネットgrid(大規模なファイル・シェアリング・システム)の到来を遅らすおそれがあります。こんなことは箱の表面には書いてない、箱を開けてはじめてわかる条件なので、ユーザーを有利誤認 させている可能性があります。これは、いわば、はじめ不完全な製品を販売し、ライセンス条件(使用ハード限定)の履行保証(ハード情報の登録)を条件として追完するする行為なので、Microsoftが 何を根拠としてこのような不便をユーザーに強いているのかという点にも興味がひかれます。著作権を根拠にしているのだったら、公正使用を勝手に制限していることになるし、契約を根拠にしているのだったら、いわゆるシュリンク・ラップやクリック・ラップ契約の効力はおおいに疑わしいところです。(11)

PassportとActivationをあわせて考えると、収集したプライバシー情報を利用するシステムを構築するための「ビルディング・ブロック」をe-コマースやコンテンツ産業に有料供与することによって、彼らを顧客管理とセキュリティの両面から支配する「.Net(ドット・ネット)MyServices--旧称HailStorm(霰嵐)」という壮大な野心が浮かび上がってきますが、現実にはこの野心をCitiGroupなどに見抜かれて、うまくいっていないようです。

5.独占とその対策

5.1.独占正当化論(12)

これから大きな成長が見込まれる電子政府市場で、MicrosoftのWindowsが意外にも苦戦しています。相手はLinuxです。各国政府が次々とLinuxの採用に傾いており、欧州連合や中国はすでにかなりはっきりそう決めているようです。中南米では米国大使が強引なWindows売込みをやってかえって反発を買っています。ガチガチの財産権保護を主張し、ソースを一切開示しないというマイクロソフトの方針が嫌われているのです。Windowsが各国政府の機密情報を米国政府に流すルーティンを隠し持っているのではないかと疑う人さえいます。この疑いを晴らすためもあって、Microsoftは、特定の政府に限って、ソースを開示することにしたが、今度はその守秘契約がまたまたガチガチで、改変不可、ソースにアクセスした技術者の転職制限などなど、ひどく評判が悪いようです。

日本でも、最近、MicrosoftのBill Gates会長が各所で講演してWindowsの宣伝をして行きました。ここでとくにおもしろかったのは、コンピューター市場に関するいわばBill Gates経済学が展開されたことです。日経新聞(2003年2月27日)のインタービューからBill Gatesの発言を引用してみましょう。

「Linuxには、ソフトに改良を加えても、改良した設計情報を公開しなければならない、有償にしてはいけないとの制約(いわゆるGeneral Public License 一般公共ライセンス)がついている。つまりいくら改良しても企業は収入を得られない。ほとんどの政府は雇用も生まなければ税収も期待できないソフトの研究に多額のカネは出さないだろう」。「Microsoftはソフト販売で得たカネをソフトの開発に投資してきた。その結果、事実上米IBM製しかなかったコンピューターの市場が開放された。日本でも・・富士通や、東芝・・キャノンなどの優れたメーカーが登場した。日本や台湾は大きな恩恵を受けている」。

一般に、競争市場では、競合品の間で価格競争が起こって価格が下がり、これ以上値下げするとコスト割れになるという点で需要と供給が均衡し、均衡価格と均衡数量が決まります。この均衡点では、社会への供給量が最大になり、利潤がゼロになります(利潤ゼロでは配当も研究開発(R&D)もできないじゃないかという誤解がよくありますが、ここでいうコストには再生産投資に必要な費用はふくまれています)。

独占市場ではこうはなりません。独占者(モノポリスト)は価格を自由に決めることができるので、とうぜん利潤が最大になる点で価格を決め、それで売れるだけの数量を供給します。独占価格は均衡価格より高く、独占数量は均衡数量より少ないのです。要するに、競争市場でなら買えたはずの人も、独占市場では高すぎて買えないのです。一方、独占者は、どんどん増える独占利潤を、あたらしい独占を作り出すために投資します。独占者が得た独占利潤は消費者から取りあげたもの(トランスファー)ですが、社会はどこへもツケをまわせない損失(デッドウエイト・ロス)を受けています。ここでハッピーなのは独占者だけです。上のBill Gatesの話は典型的な独占者の自己正当化論です。

Bill GatesがIBMのことを言っていますが、IBMも、かつては、大型コンピューター(メーンフレーム)のOSにハードとアプリを事実上抱き合わせていて、いまのMicrosoftとIntelをあわせたような独占者でした。かつてのIBMは、いまのMicrosoftと同じく、OSのシェアが上がれば、その上で動くアプリが増え、そのことがさらに同OSのシェアを押し上げるという、いわゆるネットワーク効果のたまたま受益者でした。メーンフレームのOS(MVS)の原型は1964年に発売されたもので、1980年代初頭パソコンにやられるまで20年間も独占的地位を保ったのです。その間MVSはガチガチの財産的保護(著作権は1980年以後)を受け、価格も下がらず、たいした技術革新もないままひたすら巨大化し、おかげでコンピューターの普及も大企業にとどまりました(デッドウエイト・ロス)。独占市場が長引くと、独占者は、かつてのインカ帝国のように、内部では絶対だが外部からの一押しで倒れる脆弱な体質になります。歴史は繰り返します。Linuxはインカ帝国に対するPizarro(スペインからの侵略者)の役割りを担うのでしょうか。

オープン・ソースのLinuxでは、企業は収入を得られず、雇用も増えず、技術革新のインセンティブもなくなる・・とBill Gatesが言っているのはほんとうでしょうか。

まず、創業者プレミアムを考えましょう。Linuxベースであたらしいシステムを開発した会社は、95年の財産的保護こそ受けませんが、追随者が現れるまでに、かならず一定の先発者利益を受けます。1979年発売のソニーのウォークマンが典型例です。ウォークマンは原理的にはテープ・レコーダーにすぎず、特許はほとんどありません。にもかかわらず、ソニーは、先発によって得た半年程度の時間的余裕を利用して新製品を開発し、模倣品が現れたときには次世代品を発売して引き離す・・というサイクルを20年以上にわたって続け、ヘッドフォン・ステレオでの首位を保ってきました。

つぎに、投資の規模のことを考えましょう。MVSやWindowsは20世紀型巨大技術の典型です。かつてのIBMやいまのMicrosoftは巨大な投資をして長年それにしがみつくという20世紀型の重いビジネス・モデルでした。オープン・ソース時代には、あまり巨大な投資をすると、投資を回収できないうちに競争に巻きこまれるから、かわりに、小刻みで多様な投資を頻繁かつ的確におこない、追随者が現れて値崩れが始まったら、直ちに投資を引き上げて新分野に転進する・・という身軽な経営が勝ち組の条件になっています。

これらは外の世界でも起こっている大規模な軽量化・敏捷化革命の一環です。たとえば製薬は、かつては、世界中から採集した標本を培養・抽出して何千匹のハムスターで試験し、そのなかから有用な抗生物質を1株みつけるという巨大かつ低効率のR&Dをやっていました。いまはゲノム技術による効率的な病理学的リサーチをめざしています。かつては何百万ドルも宣伝費を使って一人のスーパースターを作りだし、CDアルバムを何百万枚も売るという重い商売をやっていたレコード業界も、いまNapsterやKazaAのおかげで、オンラインでのシングル売りに転換しつつあり、おかげで今までスーパースターの日陰で芽がでなかったナンバー2や3のアーティストにも日があたる−−音楽市場のルネッサンスの−−チャンスがめぐってきています。半導体も、DRAMの自殺的大量生産からシステムLSIの受注生産へシフトしようとしています。米国の巨大製鉄は無数の電炉ミニミルに敗れました。

5.2.垂直分割と強制ライセンス

以上述べてきたMicrosoftの行為が、単独で、または複合して、シャーマン法2条違反の独占(維持)企図を構成すると認定された場合、つぎの問題が救済措置(relief)です。Windows 95/98の第1次Microsoft事件では、地裁の会社分割命令が審理不尽で差戻しになり、司法省がこれを取り下げてしまったので、Microsoft事件に関しては、垂直統合問題にこれ以上深入りする実益はないのですが、地裁の分割命令には、かなり有力な理論的根拠があったので、今後の−−たとえばNTTの再分割や電力の垂直分割−−問題との関係で、かんたんにご紹介します。つまり、これらの問題のほとんどが、垂直統合の結果として、または垂直統合をねらって、起こっているということです。たとえば、Microsoftがミドルウエアに参入する、認証サービスに参入する、プロバイダーのMSNを所有する。AOLがコンテンツのTime-Warnerを吸収する。電話会社がプロバイダーを所有するなどなど。

大胆な類推ですが、OSI(Open System Interconnect)のネットワーク7階層はそれぞれ独立なので、それぞれに対応する産業間の垂直統合には効率性メリットがありません。他方、ある階層の独占を梃子(leverage)として、隣接階層の独占を企図する誘惑が大きいので、デメリットがはっきりしています。競争理論上は、それぞれの階層に沿ってアンバンドルするのが正しいと言われます。同じ論理が、コンピューターの各サブシステムについても類推できるのではないでしょうか。

OSI の7階層

ネットワーク

コンピューター

アプリケーション層

FTP/SMTP

AP

プレゼンテーション層

Syntax (ASCII)

OS

セッション層

RPC/Net BIOS

 

トランスポート層

TCP/UDP

ブラウザ

ネットワーク層

IP

 

データリンク層

Ethernet

モデム

物理層

加入者線

CPU

この7階層の上にあるのがコンテンツ層です。Microsoft事件の本質は、前にも申し上げたように、デジタル・コンテンツとユーザーの間を結ぶ細い峠道を抑えようというMicrosoftの戦略的行動だったのでしょうね。情報市場におけるネットワーク効果(自然独占)を抑止する究極の法的手段こそ独占企業の垂直分割だというのが米欧競争当局の共通認識のように思われます。

企業分割があまりにも過激だというなら、次善の策が知的財産権の強制ライセンスでしょうね。これに対しては、知的財産権の一方的ライセンス拒否が、知的財産権の本来的行使(EUの用語では「固有主題」)だから、競争法の適用が本質的に除外されるという学説が有力です。しかし、私は、著作権(およびもともと準物権ですらないトレード・シークレット)のライセンス拒否が、独占の道具として使われる場合は、本体的行使や固有主題から外れるので、競争法の適用があると考えています(本間忠良、「フェティシズムとユーフォリア」参照)。

5.3.著作権

Microsoftの独占を可能にしている制度的裏付けは著作権です。Microsoftは、独占による超過利潤(Windows/Officeで対売上高営業利益率が80%に及ぶ(12.5))を技術開発に投入し、その成果を著作権という独占権で保護し、さらなる超過利潤を獲得します。ここでいう技術が消費者にとって望ましいものかどうかは分かりません。むしろ消費者とは関係なく、さらに独占を強化するための技術(たとえばDRM)とみるのが自然でしょう。ここで著作権についてすこし考えてみましょう。

デジタル化によって映画製作のコストが激減しており、いま教育に大きな変革をもたらしつつあります。カリフォルニア州では、中学校で、シナリオを書かずに、直接デジタル・ビデオで思想を表現する実験が行われています。数千年来の「書く」という制約から解放された思考革命が期待されています。この実験からすでにいい作品が出ているのですが、これを発表することはできません。というのは、その中には、既存の素材映像をとりこんでいるものがあるからです。本から学んだ表現形式を発展させることがよくて、音楽や映像ではだめだというのでしょうか。いまの著作(財産)権は、情報革命に対してあきらかに反革命側に立っています(13)

情報革命の基本権として著作(財産)権が不適任であることを示す話がたくさんあります。コカ・コーラの空き缶が写っていただけでボツになった映像作品があります。そういえばAndy Warholのコカ・コーラやキャンベル・スープの缶はどうしたのでしょうね。ユーミンが自分の歌の全集をDVDで出そうとしたところ、初期の録音の権利者がわからなくなっていて断念したという話を聞きました(きっと破産財団に入ってどこかの銀行の金庫で眠っていますよ)。この最後の例は、著作者人格権と著作権(この場合は著作隣接権)の−−クリエィターと業者の−−の利益相反をよく示していると思います。

米国では、(ミッキー・マウスの著作権が2003年に切れる)Disneyなどの強力なロビィングのもとで制定された1998年Sonny-Bono著作権期間延長法(CTEA)が、それまでの著作権保護期間50年を70年に、法人著作権を95年に延長しました。

これに対して、1999年、著作権が切れてパブリック・ドメイン(公有)に還った書籍をデジタル化して無料でネット公開していたEldrich Pressが、同法の違憲(1条8項の「限定期間」規定と第1修正「言論出版の自由」違反)宣言を求めて提訴(Eldred v. Ashcroft)、一審、二審では敗訴したのですが、2002年2月19日、連邦最高裁が上告を受理、事件移送命令を発しました。この種の上告は自動的に受理されるわけではなく、最高裁の裁量(平均10%ぐらい)なので、この問題に対する最高裁の強い関心が読みとれます。原告は、制定時(14年)以来150年間に一度しか延長されなかった著作権期間が、最近40年に11度も延長されている−−だから「for limited Times(憲法第1条第8項)」違反だ−−と主張しました。また、1930年に出版された書籍10,000点のうち、現在入手可能なのは174点だけで、いまでも読む価値のあるものがほとんど絶版になっているそうです。レコードや映画は劣化がもっと早く、いまデジタル化しなければ、人類の文化遺産から永久に失われてしまう・・という懸念が原告の主張の背景です(14)

2003年1月判決が出ました。まあ予想はしていましたが、最高裁は、憲法が議会に広範な裁量権を付与しており、Sonny-Bono法による70年(個人)95年(法人)がこの裁量権の範囲内にはいる、また、期間延長をさかのぼらせても憲法第1修正(表現の自由)違反にはならないとして、原告の請求を認めませんでした(15)。ただ判決は7対2で、この種の憲法判断としてはきわどい判決だったと思います。これ以上の延長はあぶないでしょうね。

この訴訟でEldrich側の専門証人として論陣を張ったStanford大のLawrence Lessig教授(「フリー・ソフトウエアにフリーのディナーはない」『インターネット評論』参照)が、最近、議会に対してSonny-Bono著作権期間延長法(CTEA)の見直しを求めるオンライン署名運動をはじめました(http://www.PetitionOnline.com/eldred/petition.html)。見直しの内容は、Lessig教授の穏健路線を反映して、CTEAの全面廃止を求めるものではなく、新保護期間(個人70年、法人95年)はそのままでもいいから、旧保護期間(個人50年、法人75年)満了直前に、あと20年延長を希望するかどうか権利者(またはその承継人)の希望をとり(1ドル程度の手数料をもらう)、希望がない場合はそこで保護期間が切れるというものです。ほとんどの権利者が、それまで半世紀以上抱えこんでいた著作物を、よろこんでパブリック・ドメインに置くだろうとの読みが前提になっています。私も署名しました(外国人可)が、数分後念のため再アクセスしてみたら数十人増えていました(通し番号がつく)。これは大きなキャンペーンになるでしょうね。ただ、私は、この法改正が、無方式主義のベルヌ条約に触れるのではないかと危惧しており、やはり根元のベルヌ条約から見直さなければいけないのではないかと思っています。

1. 「情報革命」については、本間忠良、「情報革命における『個』の開花とあたらしいビジネス・チャンス」参照。

2. 交渉の出発点としては,2000年6月地裁判決中の行為規制が有力と思われる:(1)競合ソフトウエアを頒布したPCメーカーを罰しないこと。(2)全PCメーカーに差別的でない価格でライセンスすること。(3)WindowsのコンフィグについてPCメーカーにもっと自由を与えること。(4)競合ソフトウエア・メーカーに、Windowsの内部インターフェイスをふくむ技術情報をもっと与えること(Secure Facility設置)。(5)Windows上での競合ソフトウエアの動作を妨害しないこと。E開発業者と競業禁止取引きをしないこと。(6)Windowsの新バージョンが出てから3年間は、旧バージョンも売ること。(7)(Instant MessagingやMediaPlayerのような)新フィーチャーをWindowsにバンドルしないこと。

3. http://www.usdoj.gov/atr/cases/f9400/9462.htm.

4. LAWRENCE LESSIG, CODE−−AND OTHER LAWS OF CYBERSPACE (Basic Books, 1999)。

5. STEVE ROHR, Digital Media Becomes Focus As Microsoft and AOL Settle, THE NEW YORK TIMES ("NYT"), 03-6-2。

5.25. NYT 04-3-24/25/Wired News 04-3-24.

5.3. NYT 07-10-22.

5.5. SAM WILLIAMS, FREE AS IN FREEDOM -- RICHARD STALLMAN'S CRUSADE FOR FREE SOFTWARE (O'Reilly, Sebastopol, CA, 2002) at 159.

6. Windows XP発売にさきがけて、(日本の)市場から、95や89は見事なまで完全に姿を消している(店員によると、メーカーが回収していった由)。シェルフ・スペースは大したことがないのに・・。旧型化しつつあるMeの価格は下がっていない。新品市場の硬直性を補うはずの中古ソフト店はまったく育っていない。メーカーのかなり過激な流通政策が見えているが、著作物だから何をしてもいいと思っているなら間違いである。95や98の需要があるのかって? ある。まず自作PCがそうだ。旧型PCが、ウィルスや改造などでトラブルを起こして、ハードディスクをフォ−マットすることが多い(旧型の保有率が進む今後、ますます多くなるだろう)が、この場合、OSの旧版が見つからないでお手上げになることがある(とくに旧々版の3.1からバージョン・アップしてきた場合など、DOSのバージョンが違っていることがある)。旧OS対応の画像が新OSではトラブルことがある。DTP現場では新旧OSを別パーティションにインストールしている。Windows DTPがやっと普及してきた現在、旧OSへの需要が発生している。小売店頭では、やむなく、英語版の98を売っている。これでは仕方がないので、ユーザーは、やむなく、PCを新型に買い換え、旧型を廃棄する(有料)。PCハード・メーカーもこれを歓迎する。MicrosoftがPCメーカーに対してInternet ExplorerやWordの抱き合わせを強要した第1次Microsoft事件と違って、第2次Microsoft事件では、供給サイドが一致してユーザーから収奪する体制ができている。

7. 調査会社の試算によると、これによるコストアップは、米国で30-100%以上、英国で94%にのぼるという(WSJ 01-9-25)。まことに、モノポリストにしかできない商法である。ただ、承諾期限を一度延長した最終期限の2002年7月現在、この俗称Licensing 6はひどく不評で、大手企業でこれを承諾したところはほとんどない。パッケージ価格の高いこともあるが、どんなアップグレード(Microsoft責任のバグも含めて)があるのもわからないのに、高いパッケージ料金が払えるかという反発らしい。Microsoftのモノポリスト的態度が顧客をLinuxのほうに追いやっている可能性が指摘されている。Joe Wilcox、「MSの新プランに顧客反発」、ZDNet 02-7-30。Windows XPに対して、米欧業界・競争当局がはげしい先制攻撃をかけている。その結果として合意されるであろうconsent decree (米)や undertaking (欧)が、日本向けのWindows XPにまで及ぶという保証はない(注8)。日本は平和な国である。

8. 本間忠良、「マクロ・アーキテクチャーをめぐる独占への死闘」参照。

9. WSJ/NYT 02-8-9.

10. 以上述べてきたほとんどの問題行為に関して、シュリンク・ラップかクリック・ラップ条項でユーザーが同意しているのではないかという疑問があるかもしれない。しかし、反トラスト法は強行法規だから、契約に優先する。さらに、シュリンク・ラップやクリック・ラップで契約が成立するかどうか、どんな条件なら契約が成立するか、判例・学説ともまだ確定していない。シュリンク・ラップとクリック・ラップについては、2000年末、それまでもめていたUCC 2Bからスピン・オフしたUniform Computer Information Transactions Act (UCITA)というモデル法典ができたが、これにもとづく立法はまだ1-2州にとどまっている。「I agree」ボタン(クリック・ラップ)については、最近興味深い下級裁判決があった(ニューヨーク・マンハッタン地区連邦地裁、2001年7月5日−−控訴の可能性大)。NetscapeのSmartDownloadをダウンロードすると、ユーザーのファイル移動履歴がフィードバックされる(Netscapeはいまはやっていないが、HPにプロバイダーへのリンクを張るとこうなるという説もある)。これをプライバシー侵害とするユーザーからのクラス・アクションに対して、Netscape (AOL) が、ダウンロード約款中の仲裁条項を援用して棄却を申立てたのに対して、判事は、約款の「I agree」ボタンが、ダウンロード作業の critical path (ここを通らなければ先へ進まない必須経路)上になかった−−したがってユーザーの合意が推定されず、契約が成立していない・・などとしてこれをしりぞけた。最近のダウンロードのように、ます使用条件のページが立ちあがって、ここで「I agree」を押さないかぎりダウウンロードがはじまらない−−click thru license−−なら契約が成立したといえるか−−契約が成立したとしても、約款に書かれてもいないプライバシー侵害についてまで、仲裁条項によって一般的に訴権を放棄したことになるか、そんな条項が公序良俗違反にならないか−−法の不確定性はまだまだ終わっていない。

11 市場調査のYankee Groupによると、企業ユーザーのMicrosoftに対する不満がいま史上最大値を示している(1,500社中40%が代わりがあったら切り替えたい由)。その理由の第1がこのProduct Activationである。とくに大量ユーザーにとって、ライセンス料はLinuxのほうが圧倒的に有利である。GoogleやAmazonのような大量ユーザーが、つぎつぎとLinuxに転向している。Michelle Delio、「Linuxは企業の恋人」、Wired News 02-8-14。このことは、いままで、いかに企業がシュリンク・ラップの1マシン・1ソフト条項を守っていなかったかを示している。シュリンク・ラップには真の合意が存在しない。だれも守らない契約にどこまで法的拘束力があるのだろうか。

12. 「ビル・ゲイツ経済学」『インターネット評論』を再掲。

12.5. 日経 03-8-20.

13. LAWRENCE LESSIG, THE FUTURE OF IDEAS−−THE FATE OF THE COMMONS IN A CONNECTED WORLD (Random House, N. Y., 2001) at 235.

14. Wired News (“WN”)/NYT/WSJ 02-2-20.

15 WN 03-1-16.