イベント情報
| 「循環型社会への扉を開こう」連続講座第2弾 |
行動する科学者藤田祐幸が語る
環境論入門〜炭酸ガス主犯説を越えて |
日 時:10月25日開催しました
場 所:大分市コンパルホール 305号室
講 師:藤田祐幸さん(元慶応大学助教授)
大学というところは、農村や漁村の若者を都市のサラリーマンに改造する工場であった。彼らや彼女らの家や村に何百年も積み重ねられてきた経験(これこそ文化と呼ぶべきものだろう)は、受け継ぐ者を失って、消え去ろうとしている。大学の罪は大きい。
科学者たちは、植物の養分を窒素・リン酸・カリの三要素に単純化し、科学的近代農業のために合成化学肥料を投入することを奨励した。バランスを失った農地の生態系は崩れ、今度は毒ガス兵器として開発された農薬が散布されるようになった。農業は等身大の空間から巨大科学産業の網の中に入っていった。水俣病はこのような構造が引き起こした悲劇であった。そして今、この国の農業はグローバリズムの渦に巻き込まれ、人口減少時代を迎えて消滅の瀬戸際にある。私の住んでいる長崎県雪浦の人たちは、それでもなぜかみんな明るく、ゆっくりとした時間を生きているように見える。私は、大学を去り、職業としての科学者であることを辞め、都市を出でて、賢治の言葉をつぶやきながら、地人となるべく、この村での暮らしを始めたところだ。
藤田祐幸(ふじたゆうこう)プロフィール
東京都立大学理学部物理学科卒、同大学院理学研究科物理学専攻博士課程。エントロピー論、科学哲学専攻。慶應義塾大学物理学助教授、日本物理学会所属。物理学者の立場から、放射能が人体と環境に及ぼす影響を訴え続け、原発や被曝労働の実態調査、1990年〜93年チェルノブイリ周辺の汚染地域の調査。2003年5月末からバクダッドとバスラに入り、劣化ウラン弾による被害状況と環境汚染を現地調査、放射能測定などを行った。7月にイラク支援法案を審議中の衆議院特別委員会で、参考人意見陳述を行う。
主な著書:『知られざる原発被曝労働・ある青年の死を追って』(岩波ブックレット)『脱原発エネルギー計画』(高文研)『原子力発電で本当に私たちが知りたい120の基礎知識』(東京書籍・共著)『エントロピー』(現代書館・共著) など多数。
藤田祐幸さんの話を聞いて
小坂 正則
藤田祐幸さんにはこれまで何回か大分にお呼びしてお話をしていただいたことがある。その話のほとんどはチェルノブイリ周辺の被曝した人々の暮らしや、日本の55基の原発を運転し続けるためには無くてはならない人々である被曝労働者の実態など、底辺でこの国を支えている人々の悲痛な現実を、藤田さんは切々と訴えた。「原発が差別なしには動かない」や「原発は民主主義の国にはない」などという藤田さんの話はなつかしい。
さて、「今回の話は、昨晩まで考えた」と本人がおっしゃるように、「環境論入門講座」ということで、「原発の話はしません」と最初からおっしゃっていた。サブタイトルに「炭酸ガス主犯説を越えて」というように現代の環境問題の全て、諸悪の根源が炭酸ガスだという多数派説に対して、批判する人々をまるで魔女狩りのように徹底して抹殺するような風潮を彼は「それは科学ではない。科学は多数決で決めることではない。科学は真実だけを追究し、少数意見を尊重する学問だ」と語気を強めて語った。
彼は、「皆さんが環境問題を考える時の前提になる理論を今日はお話ししたい」と、前置きして話し始めた。「エントロピーとは何か」という話から始まった。(エントロピーとは熱力学第二法則と言って低エントロピーの物質は拡散して高エントロピーへと一方向にしか進まないという法則のことです。例えば熱は高いところから低いところへ進んでいく。インクをバケツに一滴落としたら必ずインクは拡散しますが、拡散したインクが集まってくることはないなどです。:筆者)鉄鉱石の中には鉄は僅かしか入っていません。その時点の鉄はエントロピーが高いと言います。(汚れているともいわれる)それを精錬する場合熱などのエネルギーを加えることで高エントロピーの鉄がエントロピーの低い純度の高い鉄へと精錬されるのです。その場合コークスなどは汚れとなって鉄鉱石のエントロピーを奪うのだといいます。雑巾で汚れを取るのとおなじようなことだといいます。必ずエントロピーの低いものを作ろうとすればそのエントロピーを奪うための雑巾が必要だと。
さて、その話を地球上の循環について考えてみましょう。
植物は動物に食べられ、動物は死ぬと微生物が死骸を分解し、その微生物が出した養分を植物が吸収し生長するという循環が成立していると高校の教科書に書かれています。しかし、これにはウソがあります。そこにはそれを取り巻くもう一つの循環があるのです。それは熱と水の循環です。植物の葉は空気中の二酸化炭素と根から吸収した水に太陽の光で炭水化物を作り、植物は生長します。また、微生物が植物や動物の死骸を分解するには水が必要です。そしてバクテリアが植物や動物を分解するときには熱を放出します。その熱は蒸気となって空に上がり雲となり雲は大気圏から宇宙へ熱を放出するというのです。このような熱循環のシステムを定常開放系のシステムと言います。つまり太陽から地球に入る熱エネルギーと地球から宇宙へ放出される熱エネルギーは等しいという理論が地球のエントロピー理論です。この理論は土田敦氏が考え出した理論です。私に言わせれば、これこそノーベル賞ものだと思いますが。
次に動物の果たすべき環境への役割について藤田さんは話されました。「鮭はなぜ遡上するのか」というテーマで話しは始まりました。田圃で米が毎年豊かに実るのは山から川を通して養分が運ばれてくるからです。そして田圃の養分はやがて海へと流れていきます。田圃などの水生動物はほとんどが成虫になると羽が生えて、また山へと自ら飛んで行き、そこで死にます。環境論で言うと、山から下りてきた養分を山に返す作業を自ら行っているのです。海へと流れ出た養分は礒の藻やプランクトンのエサになります。だから「海を豊かにするには森を育てろ」と昔から言われてきたのです。しかし、重力により残った養分は深海へと沈んでいってしまいます。深海に溜まった養分はもう重力に逆らって上がってくることはありません。そしたら山の養分はどんどん深海へ溜まってしまうはずなのですが、そこに鮭が重要な働きをすると言うのです。
養分の豊かな深層水はベーリング海で一気に浮上します。その理由は北極海の冷たい海水が深海へ流れ込むためその反動で深層水が海水面に浮き上がってくるそうです。その豊富な養分の海にはセイウチや鯨や鮭が集まり、世界一の豊かな漁場となっているのです。そして、鮭は4年ほどすると生まれた川を目指して遡上し、山へと帰り、そこで卵を産み、死に絶えます。その鮭は熊が食べ、ウンコとなり、鮭の養分は山へ返されるのです。そのように深層水の栄養分は鮭などによって山へ返されるのです。
最後に、私たちは1つの現象を地球環境の全体から切り離して見てしまいます。例えば化学肥料と農薬で作られたキュウリと無農薬の有機肥料で作られたキュウリがあったとします。どちらも一見すると同じキュウリですが、石油付けのキュウリは化石燃料の資源を消費する閉ざされた系の中で行われる一方向の生産でしかない。方や無農薬で有機栽培のキュウリは地球のエントロピーに則った再生可能な循環型の生産だというのです。その最大の根拠として藤田さんは江戸論を展開しました。(上の表参照)江戸100万人社会は地球の循環理論に則った文化を培っていました。都市の住民の屎尿は近郊の農家の肥料となり、江戸前の豊かな漁場は都市住民の排泄物で育っていました。その他様々な制度で200年間戦争のない平和な社会を築いていました。私たちは江戸に学ぶべきものが多いと思います。科学技術の進歩は決して万能ではありません。治水や利水に土木工事などなど、先人の知恵に私たちももっと謙虚に学ぶべきだと、藤田さんの講演を聞いて感じました。
質疑討論で、「今日のテーマの『炭酸ガス主犯説を越えて』という意味で、地球温暖化の炭酸ガス説に対して藤田さんは異を唱えているのではないですか」という質問を私はしました。すると藤田さんは「私は温暖化の原因を炭酸ガスに一方的に覆い被せるのは反対だが、温暖化の主原因を突き止めるための研究をしている訳ではないので、反論できるだけの資料を持っていません。私が言いたいのは、二酸化炭素よりももっと危険なものがあるということです。それは放射能だ」「二酸化炭素は光合成に無くてはならないものだが、人間が作った放射能の毒は何十万年と消えることのない毒で、生物に何の利益にならない」と。
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